高校交換留学受入プログラムについて【2019年12月07日号】
高校交換留学受入プログラムは、無償ボランティアで受け入れてくださるホストファミリーと、授業料免除で高校生活体験を提供してくださる受入高校があって初めて成り立つプログラムです。そして、海外からの高校交換留学生を受け入れることで、受入ホストファミリー、受入高校のみならず、留学生たちとかかわる多くの人たちに異文化理解の推進や国際交流の輪の広がり等の機会を提供してくれます。短期、長期を含め、異文化研修といえば日本から留学等で海外に出ていくことと考えがちですが、海外からの高校交換留学生の受入れも、互いの文化の違いを学び、理解しあうということに大変有意義なプログラムではないでしょうか。
コンセプトは大変すばらしいものですが、しかし、さまざまな課題があるのも事実です。近年、海外から日本への留学希望者は増加しているものの、ホストファミリーや受入高校がなかなかみつからないというのが実情です。また、来日前に派遣元の国の団体が行うべき事前指導が、日本から海外に派遣する生徒に実施するオリエンテーション等と比較し緩やかなものであることも一因であるためか、来日して初めて大きな文化差に気付く留学生も少なくありません。
来日した留学生のみでなく、「受け入れてよかった!」とプログラムにかかわったより多くの方々から評価を頂ける高校交換受入プログラムを推進するため、その意義を今一度見直し、団体としてやるべきことを考える必要性を痛感しています。
日本留学の目的は?
留学生たちには、到着オリエンテーション初日に日本に留学することを決心した理由5つを英語と日本語で記入してもらいます。この“Why am I here?” (なぜあなたは日本に来たのですか?)の用紙に必ず書かれていることに「日本語を上達させたい」という理由があります。日本からアメリカに留学する高校生たちが留学目的を記入する願書の項目には赤字で 「Please avoid using “improving my English”」(「“英語を上達させるため”を目的としないこと」)という注意が書かれています。確かに日本からの留学生には「高校交換留学の目的は『英語を学ぶため』ではありません。『英語で学ぶため』です!」と何度も繰り返し指導しています。しかし、日本に留学してくる高校生に「日本語を上達するため」を書かないようにとは注意をしていません。それは、海外の中等教育において、日本語教育が普及している国や地域は限られており、日本語運用能力が高い高校生のみを受入対象としてしまうとその数に限りが出てしまうからです。そのため、日本や日本語に関心を持つ高校生であれば、「日本語を上達させたい」という意欲があり、さらに「日本語を上達させる=日本特有の文化を体験する」ことにつながると考えています。
日本への高校交換留学生は日本語の知識があればいいというわけではありません
留学生の中には、独学で日本語を学習して知識を豊富に蓄えて留学してくる高校生もいます。「僕の好きな漢字は『薔薇』と『蜘蛛』です」と、ノートに漢字を書いて見せてくれた留学生もいました。日本から英語圏に留学する場合、より多くの英単語を習得し、それらをコミュニケーションに有効に利用することで現地での留学生活が比較的スムースにいく場合が多いですが、日本の場合、難しい日本語の単語をたくさん覚えてきている留学生がそれらの言葉を使い、日本の文化では誤解されるような受け答えをしたりで、いろいろな問題にぶつかることがあります。これまで私たちが実際に経験した「日本語がペラペラ故に起こったトラブル」をご紹介します。
日本人同士なら聞かないプライベートなことまでをストレートに聞いてホストファミリーを怒らせてしまったトラブル
- 「あなたの最終学歴は何ですか?」
- 「あなたは離婚歴がありますか?」
- 「この家はだれが相続しますか?」
- 「家計のやりくりはだれがしていますか?」
- 「この食生活に満足していますか?」
- 「あなたは毎日会社でどのような仕事をしていますか?満足していますか?転職を考えたことはありますか?」
参考
アメリカに高校交換留学生として滞在していたAさんは、ホストマザーから「あなたは私たちのことを知ろうとしていない。例えばホストファーザーがどのような仕事をしているかといった質問を1回もしたことがない!」と叱られました…。
「謙虚さ」がないために「自信過剰」と判断されてしまったトラブル
- 「日本語上手ですね」
⇒ 「はい、ありがとう。私の日本語は大変上手で、学校では上級クラスに入っていました。」
- 「かわいいですね」
⇒ 「はい、私はとても美人ですね。母と妹もとてもきれいな人ですよ、写真を見てください。」
- 「頭いいですね!」
⇒ 「私はとても頭がいいですよ。父も母もとても喜んでいます。だから将来は医者か弁護士になります。」
参考
オーストラリアに留学していたBさんは「私、頭悪いから…」「まったくテスト勉強していない…」「今日のテスト、ぜんぜんできなかった」と友達に言ったものの、テストでクラスの最高点をマーク。現地の友達に「嘘つき」と言われてしまいました。
日本人なら状況を判断して何も言わない場面でも、言語化してホストファミリーをイラつかせたトラブル
- (冷蔵庫を開けて) 「もうオレンジジュースはないのですか?」
⇒ 見ればわかるでしょ!常にオレンジジュースを用意しろってこと?
- 「今日は何をしますか?」 「今日はどこに行きますか?」
⇒ 特に予定はないけれど、何かをしろってこと?
- 「どうしてあなたは機嫌が悪いのですか?」
⇒ あなたに理由を説明する必要ある?
日本語で「議論」をもちかけてホストファミリーを疲れさせてしまったトラブル
- 「あなたは日本人として地球環境をどうすべきだと思いますか?」
- 「LGBTについてあなたの意見を聞かせてください?」
- 「日本の教育システムや塾に子供を行かせることについてあなたはどう考える?」
- 「あなたは日本の政治に満足している?」
参考
アメリカ留学中のCさんは家でも学校の授業でも自分の意見や考え、その理由を聞かれ答えられないことがしばしば。コーディネーターを通し、ホストファミリーが「Cさんは自分の考えを持っていない、日本では誰かがすべてをCさんのためにやってあげていたのではないか?この留学生からさまざまな考えを聞くことで、私たちはいろいろなことを学ぶことを期待していた。正直がっかりだ」という感想を持っていることを伝えられました。
言い方を変えれば「文化交流」になるのに…
改めて異文化で暮らすことの難しさを痛感します。特に日本で日本人との日本的なコミュニケーションをとることは留学生たちにとって混乱してしまうこともあるでしょう。そんな時、「言い方ひとつで『文化交流』になるんだよ…」と留学生たちに率直にアドバイスを与えてくれる方々の存在はとても重要です。
例えば- 「美容師になる人は大学に行かないのですか?」と美容院で担当してくれた美容師さんに突然質問をしてホストファミリーを狼狽させてしまったケース
⇒「日本ではどのような訓練を受けると美容師になれるのですか?私の国では〜〜〜なのですが…」
- 「なぜそんなにクレイジーに働くのですか?」と毎晩遅くまで働いて家に戻るホストファーザーに質問し、家族を激怒させてしまったケース
⇒「日本の人たちは勤勉だと習いました。本当ですね!すごいですね!自分の国では〜〜〜〜なのですが…」
- 「信仰している宗教がないとは信じられません」と日本人の宗教観を一方的に批判して、ホストファミリーを怒らせたケース
⇒「日本の人たちは宗教に対してとても寛容なのですね!自分の国では〜〜〜〜なのですが…」
- 「なぜあなたは働かないのですか?」と子育てや家事に忙しいホストマザーに質問し、自分の生き方を否定されたとホストマザーに思わせてしまったケース
⇒「日本のおかあさんは家族のお世話で本当に忙しいですね!すごいですね!自分の国では〜〜〜〜なのですが…」
ちょっとした言い方ひとつで状況が変わることに気付かず、来日前に蓄えた日本語知識を一所懸命使おうとすることで起こってしまうトラブル。実は、上記のトラブル例はほんの一部…このようなケースを留学生たちにできるだけ来日前に伝えること、また、来日直後のオリエンテーションでも繰り返し指導することを徹底するシステムを1日も早く構築しなくてはいけないですね。
留学生たちの日本のおとうさん、おかあさん…
先日、このようなたくさんのトラブルを起こした留学生たちを15年以上にわたり栃木県足利市で辛抱強く指導してくださっている稲村夫妻が、文際交流協会BIEE事務所を訪問してくださいました!ある時にはホストファミリーとして、またある時には駆け込み寺の役割を担うコーディネーターとして留学生たちの「おとうさん」「おかあさん」となってくださっています。
実はこのご夫妻こそ「どんなに大変でも辛くても受入プログラムは継続すべきだ」と説き、「一人でも多くの海外の高校生たちがこのプログラムを通して日本や日本人を好きになってくれたら、彼らも、その子供たちも、孫たちも、ひ孫たちも日本には絶対に銃は向けないはず…」と私たちに語ってくださった方たちです。ご夫妻は、これまでの留学生たちが起こしたさまざまなトラブルを話しながら、「面白い子だったな…」「個性的な子だったな…」と笑いながら語ってくださいました。どんなことも恨みや憎しみではなく、受け入れ、許し、そして笑って語れるこのご夫妻から私たちはまだまだ学ぶことがたくさんあると心底思った時間でした!